feiz Online Liner Notes
和太鼓+エレクトロのデュオ・ユニット feiz 。アルバム“Rebirth”とユニットのことについて、和太鼓の金子竜太郎とコンピュータ&ピアノの脇丸諄一が、インタビューで語ったことをまとめました。
1.feiz結成のいきさつ
W(脇丸諄一):ある人を介して出会った後、鼓童時代の竜太郎さんの音源に、自分の音をかぶせて送ったんですよ。そしたら「面白いね」って。
R(金子竜太郎):もともとエレクトロニカというかノイズ系の音が好きだったので、そういう音使いのがあって、可能性を感じたんだよね。
W:それから何ヶ月かして竜太郎さんが鼓童から独立して地元にもどるタイミングだったんですよね。
R:そうそう。で、たまたま家が近かったんで、割と気軽に「なんかやってみない?」ってことに。
W:最初は家に太鼓を持ち込んで、即興でたたいてもらったのを録ったんですよ。それに対して僕が音をつけたのを聴いてもらって、またちょっとやってって感じで。。。
R:そのときのが、アルバム1曲目の“coda”。
W:それが結構すんなりいい感じになったのだけれど、そうでなかったら「もっとやってみようかな」という気持ちにならなかったと思う。
R:そうだね。
W: だから「結成!」とかいう感じでなく自然だった。
2.feizの音楽の指向性
R:最初のころに「どんな音楽にしようか」って話をして、和太鼓のサウンドと電子音がどうしたら混ざるのかって。それでノイズって一つのキーワードになったんだよね。ノイズの成分は太鼓の音にもたくさんあって、そういう肌触りや呼吸を感じるような音もエレクトリックから出ていたら馴染むかなと。
W:ノイズに対する考え方は、直接それらを用いなくても、今回のアルバム作りのベースになっているかもしれませんね。
R:僕の側からしたら、そういう音の中で演奏することは、和太鼓だけ、あるいは他の楽器とでは表現できない世界に踏み込んでいくきっかけになると思った。
W:あと、竜太郎さんが言っていた、、、文楽?
R:あ、人形劇の話しね。たとえ話だけれど、人間が芝居をすれば済むのに、なぜ表情もかわらず動きも限られる人形を使うのかと。でも人形の無機質さがむしろ何かを感じさせたり。つまり生楽器ではなく、電子音だからこそ表現できることもあると思って、その部分と和太鼓が繋がれたら面白いんじゃないかなと。
W:そういったことを踏まえた上で実際手を動かし音を出しながら探っていったので、頭で考えるだけでなく、両方で(指向性が)出来てきたって感じ。
3.音作りの方法
R:僕の即興ソロ演奏を録ったものに、電子音やピアノをのせたり、逆に脇丸君の楽曲に僕がのせて、そこからどんどんプラスマイナスしていく形。
W:一人なら一人の作品作りがあるわけだけれど、二人だと違う面白さがあって勉強になった。「これでいいかなぁ〜」とか思っていると、だいたい竜太郎さんからダメ出しが来たり(笑)。
R:「こんなふうなのはどう?」っていうと、レスポンスにプラスアルファがあったり、ふくらみを持って返ってくるのが楽しい。一方で、こうしたら相手はこう思うだろうな〜っていうのも、だんだんわかってくる(笑)。
W:「これぐらいでいいかなぁ〜」って思うってことは「なんか違う」と思っているということだから、そこを突っ込んでいくと行き着けるところがあるんですよ。そこがやってて面白い。
R:はじめから全て譜面に書いてやったものは一つもない。やりながら「これはいい」「これは違う」と言い合いって、時には 一度録ったものから、いくつかのパートを総入れ替えしたり。
W:そういうことって、例えばへんなこだわりで「俺はこうじゃないと」という感じになりがちなのかもしれないけれど、それは一切なかった。押さえるべきを押さえて、とにかくやってみるっていう感じというか。その自由さは、なんか粘土細工をしているみたいで楽しかった(笑)。
R:電子音と生楽器なら、リズムや音程など生楽器が電子音に合わせていくことが主流だと思うけれど、僕の太鼓はメロディー楽器の感覚というか、ビートだけでなく“歌”という感じもあり、正確さより流れありきのところがあって、それとコンピュータとの折り合いをつけるのにはやはり地味な試行錯誤があったね。
W:太鼓にメロディー楽器としての側面を見る、という共通認識を持って音作りしたことは、自分にとっても有意義なことだった。電子音側を人間のノリに追従させることによって、またこちらの世界も広がって、そこに可能性を感じたんですよね。
R:いずれにしても一人ではできないし、生楽器だけでも電子音だけでも、ましてや考えていても創れない世界だよね。
4.楽曲について
coda
W:一番最初に形になった、自分たちにとって大事な曲。竜太郎さんの太鼓のしなやかさって、どこか異界と繋がっているようなイメージがあって、それを壊さないように、音色とかすごく意識してましたね。
R:マレットを中心に使用して、太鼓のソフトな響きを存分に使いたかったし、電子音が背景にありながら、間(ま)を効かせたピアノが太鼓の響きも活かしてくれてるよね。
eclipse
W:この曲を作っていた当時、電子音だけでは限界を感じていて、広がりを求めていて、ピアニカでなんかできないかな、と。そして、こちらの音を聴いてから太鼓を付けてもらったんですよね。
R:うん。高低2つの太鼓がメイン。あとはお囃子で使う鉦(かね)。5拍子の曲だけれど太鼓は、比較的小節にあまり囚われずに自由に叩いてる。でも実は祭り囃子のリズムをモチーフにしてるんですよ。やっぱり自分のバックボーンから出てきてるんだね。
W:ある意味、太鼓が世界観を決定づけましたよね。
reflex
R:まず僕がやってみたいベースのパターンがあって、そこから始まった曲。音でいったら、ビートのある曲だけれど、細い竹ひごを束ねて、とてもソフトな音でやってる。
W:他の曲でもそうだけれどメロディーがあまりハッキリしすぎた構造で一節が長いものになると、和太鼓が伴奏になってしまう。この曲は短いパターンの繰り返しだけれど、そうして「和太鼓を立てる」ってことは、すごく意識しているんです。
ただ、はじめのころは太鼓を立てることばかり考えていたけれど、「俺が俺が」って意味ではなく、自分も立つことで太鼓も立つんだと気づきましたね。
flow
W:もともと僕の作品としてあったんですけど、やや未完成な感があった曲で、それに太鼓を付けてもらった。4分の5のところの太鼓のフレーズは、当初はゆったりしたテンポだったんだけれどコンピュータ上で、なんかしっくりこなくて、太鼓だけ倍速にしてみたら「それいいね」と。
R:少し速すぎるかな、と思ったけれど、流れが出るまで練習してから録りなおした。こういう形で自分の表現の幅を広げてくれるのも面白いね。
W:これもメロディーがはっきりしたものではないですよね。
R:だから太鼓のフレージングのニュアンスが感じやすい。
W:feizの音楽として成立するには、太鼓がリズムをやりつつもメロディー的な流れとして聞こえてくる事だと思う。
rebirth
W:サンプリングで遊んでたら、思いがけなく面白い音になってきて「これいいね〜」って。やってて楽しくてしょうがなかった(笑)。
R:太鼓の音は生音もあるけれど、サンプリングを使って僕が演奏してる。それは人生初かな(笑)。単純に刻まれる低音のビートが、ぐぅ〜っとうねりながらゆったり前進して、周囲で高音がはじける。雅楽の笙のような音が、微妙な音程感を漂う独特な雰囲気を醸している。聴く人それぞれで、どんなイメージを持つのかな。。。
fly
R:ある程度創ったけれど行き詰まって、しばらく寝かせてまた掘り起こしてきた初期のトラック。
W: 太鼓のグルーブだけで成立していたから難しかった。 創ってるときは「この曲大丈夫かな。。。」と思っていたんですよ。(笑)。
R:最終段階のころに、曲後半の上へ広がっていくような展開ができて形になったね。
W:太鼓以外の初期のテイクは全部捨ててやり直して、結果的に太鼓のグルーブにこちらのリズムを沿わせていったことで、コンピュータサウンドがなっているにもかかわらず、大陸的というか、雰囲気のあるグルーブが出て面白かったですね。そうしたのは、以前竜太郎さんから聴かせてもらった音源が、一つのヒントとして心に残っていたんです。
R:あ〜、僕の世界観を知ってもらう手がかりとして聴いてもらった音源のうち、アフリカの西から北にかけての民族音楽ね。僕が好きなやつ(笑)。
alive
R:これは珍しく僕が太鼓のパートと曲の構成を譜面にしてから始めた。
簡単なリズムだけれどね。
W:簡単だけれど、なんか普通じゃない(笑)。
R:別にひねってる訳じゃないけれど、、、。
W:まぁ、竜太郎さん的っていうか(笑)。
R:太鼓も叩くバチもチャッパもいろいろ種類を替えて、何度も重ねて録音したね。
W:そこに一度コンピュータとピアニカをのせたけれど、暗いマイムマイム、オクラホマミキサーみたいになっちゃって却下(笑)。やっぱりメロディーを乗せるのって難しいんですよ。
R:で、PIANOのミニマルなの乗せたらどう?って。
W:自分だけなら気恥ずかしくてやらなかっただろうけれど(笑)、でもミニマルのような発想で、リズムとメロディーが合体したようなのだと合うんですね。
R:ピアノと太鼓の進行するサイクルが違うところがあって、でも何回かでお互いのフレーズの頭が同じところにくる。その間のズレが混沌としたうねりになっていたり。あと、譜面は16分音符なんだけれど、民族音楽並みにかなりたゆませたノリにしてて、、、それにピアノも付き合ってもらった。むちゃぶりだよね(笑)。
W:いや〜、でも面白かったですよ。
moon
R:これもやはり即興で、一本の木をくり抜いた直径1メートルの平胴大太鼓を手で叩いている。大きな和太鼓だと「ドカスカ系」が主流だけれど、この深くて繊細な温かい音が僕はとても好き。
W:シンセで使うストリングスとかのせてたけれど、なんかウソっぽくて。。。で、究極ピアノと平胴で電子音がなくてもやれたらいいかなって。
R:ピアノの音を一つ一つ丁寧に置いていって、その余韻を味わうようにできたらいいなと。
W:それでこうなったんだけれど、ライブではロングバージョンでやってみた。そのときの盛り上がりというか広がる感じが、このミックスの後半に反映されてる。でも、やっぱりこの曲のように、楽器が少ない方が双方生きますね。
5.アートワークについて
W:feizの音楽に合うジャケットのアイディアを探していて、ある美術館の作品で、館の外に展示してあったのですが、外は撮影可能というアナウンスをいただいていたので、それが作り出す状況を素材にたたき台をつくったんですよ。でも美術館に一応確認の意味も込めて問い合わせたらやっぱりNGでちゃって。まあ、当たり前なんですけどね(笑)そんなとき竜太郎さんのパステルアートの作品を見せてもらう機会があって「じゃあ、竜太郎さん描いて下さい。」って(笑)
R:まさかそうくるとは思ってなかった(笑)。CD盤にあるfeizのロゴと合わせて何点か描いて、結果的には原画を崩さない形で、コンピュータで脇丸くんが加工を加えてくれた。僕はアナログ、脇丸くんがコンピュータというのもfeizらしいよね。
W:結果的にすごくいいものになったと思いますね。ジャケ買いしたくなりますよ(笑)。
R:レインボー、斜めの亀裂、そこから差し込むまばゆい光。見る人は何を感じるのかな〜。
6.これからやってみたいことなど
W:やっぱりライブですかね〜。できれば見せ方を考えたものというか。
あと、いわゆるライブハウスやホールのみではなく、美術館などのアートスペースなどでもできたらいいですね。
R:feizのコンセプトをもっと突き詰めて新たな音源作りをしてみたい。やっぱりまだ未知の部分がたくさんあると思うから、そこを探っていきたい。ライブは演奏の自由度をいかに高くできるかだね。
W:そうですね。またちょっと違ったアプローチや広がりを持たせてやれると思うし、ライブでももっと自由に扱える電子音のありかたは追求してみたい。
R: 打ち込みの電子音に生音が乗っかっているだけではない、もっと有機的な関係としての電子音と生音の融合は、これからの分野。その進化のプロセスで起こりうる、人間の発想と意識の広がりに興味がありますね。